魅惑の果実

恥ずかし気もなく、泣きながら走った。


泣きたいわけじゃない。


でも溢れてくる。


止められない。


あれ以上あの雰囲気に耐えられなくて、私は桐生さんから逃げ出した。


まだ賑やかな繁華街。


明かりや人がボヤけてる。



「はぁ……はぁ……っ」



息苦しくて立ち止まると足に痛みが走った。


靴擦れしてる。


もう、やだ……。


その場にしゃがみ込み、膝を抱えて泣いた。



「え!? 美月!?」



その声に顔を上げると、慌てて駆け寄ってくる美香ちゃんの姿が見えた。


ホッとしたのか余計涙が溢れる。



「どうしたの!? ちょ、立てる!?」



美香ちゃんに手を引かれ私はゆっくり立ち上がった。


泣き過ぎて上手く言葉が出てこない。



「一旦友達のところに戻るから、ちょっと待ってて。 いい? すぐ戻るからそこから動かないでね」



頷くと、美香ちゃんは小走りで行ってしまった。


友達と一緒だったんだ。


悪い事しちゃったな……。