魅惑の果実

手の甲で口元を拭い、おとなしく綺麗に座り直した。


結局桐生さんには敵わない。



「今日すげー楽しいんだけど」



相変わらずニヤニヤと見てくる大雅さんに言い返す余裕がなかった。


私は恥ずかしいっつの!!


桐生さんはいつも通り平然と涼しい顔してるしさ。


意識してんの私だけじゃん……悔しい。



「呑んでやるー!!」

「いいね、いいね〜。 俺も付き合うぜ」

「桐生さんなんて放っといて呑みましょ!!」

「桐生なんて放っといてだってよ! 美月ちゃん面白過ぎだろ」



隣からため息が聞こえた気がしたけど、気にしない。


私の気持ちを掻き乱す桐生さんが悪いんだから。


お酒強くないのに、日頃の勉強が無駄になるんじゃないかと思うくらい呑んだ。


大雅さんが話を盛り上げてくれるからか、楽しくて、気持ち悪くはならなかった。



「帰るぞ」

「もう!? やだぁ〜! ってか私だけ酔っ払って大雅さんちょー普通!!」

「俺は酒じゃ酔わねぇの」

「じゃあ何に酔うんですかぁ? 車?」