いっちに、さんし。
気の抜けた掛け声が響く。体育の前の準備運動は大切だと言うが皆あまり真剣にやっている様子はない。

「なぁ了平」
「ん、なんだよ翔太」
「……もし目の前で人が死のうとしてたらどーする?」
「はぁ? なに、お前センチメンタルかよ」
「別にそんなんじゃねーよ!」


了平とは小学生の頃からずっと一緒で家も近所でよく遊んでいる。悪いことをするのは全部了平とだし、腹を割って話せるいい友達だ。

いっちに、さんし。ぴょんぴょん跳ねる。手足をばたつかせてぴょんぴょん跳ねる。
一クラスの男子25名が運動場に一列に並んでこれを踊ってる姿はさも滑稽だろう。

「なら質問を変える。梶木遥ってやつを知ってるか?」
「え、んだよもっかい! ワンモア!」
「かじきはるか!……知ってるか?」
「知らねーよ。なにその子、可愛いの?」

健全な男子高校生というものは実にバカなもんで。こればっかりは仕方の無いことだ。

「可愛いってか……ん、待てよ可愛いのか?」
「おい、翔太もっかい名前言ってくれよ」

俺と了平の間に割って入るようにして駿介が聞いてきた。

駿介とも小学生の頃からずっといっしょで、中2の頃こいつが初恋の女の子に告白してフられて一週間学校に来なかった時、俺と了平が喝を入れに行ったという思い出がある。
しかし意外なことに駿介は高校生になるとかっこよくなっちまって、スタイルも良いおかげかよく合コンにも呼ばれているらしい。

「んだよ駿介、鼻息荒くして」
「頼む! もーいっかい、もーいっかい!」
「……梶木遥だよ」
「その人成績が学年トップのひとだ! 確かいっこ上の先輩だよな?」
「あー、うん。先輩にしては身長低いみたいだけど」
「梶木先輩って、この高校のポスターに載ってた人だよ。えーっと……確か黒髪でそこそこ可愛かったような……」
「駿介は可愛い子に目がねぇよなぁ」
「了平に言われたくねーよ」
「まぁチェリー三人が何言ってんだって話だけどな」

急にずーんと重い空気になった。
さくらんぼ同盟の俺たちは高校生になっても相変わらずだ。

「えーっと、翔太は梶木先輩のこと好きなの?」
「……話に聞いただけ」

真っ青な空とは反対に気持ちが悪い程真っ赤な手首が浮かぶ。
なびく黒髪、不敵な笑み。

自傷をいまさらダメだなんて言わない。
愛花姉ちゃんのことがあったのに、そんなの言えるわけがない。