たもとと遥が帰り、美由紀にたもとの連絡先を教えた後、やっと俺は一息ついた。

「なぁ、ちょっと俺たち腹割って話さねぇか」
「え、でももう遅いし……」
「頼む、俺も翔太に聞きたいことがあるんだ」

了平と駿介が詰め寄る。
参ったなぁと思いながら美由紀を横目で見たところケータイに夢中だった。
ほんのちょっと前に買ったピンクのスマートフォンをとんでもない速度でタップしている。

「美由紀ちゃんもケータイに夢中みたいだし、いいだろ」
「……わかった」

とりあえず美由紀をリビングで待機させ、俺と他のメンバーは了平の部屋に集まった。


「えっと、はっきり言うけど俺は駿介がすんげー羨ましかった。正直妬ましかった」

ドクターペッパーの炭酸に勢いを任せて吐き出した了平は息継ぎをすると再び話し始めた。

「高校入ると急にイケメンになっちまうし、他校の奴らとも夜遊びで何やってんだと思ってた」
「ちょ、了平……」

さすがにそこまて言っていいのかと俺は制した。
しかし、了平は急に俯いて背中を丸めて、今にも泣きそうな声で弱々しく言った。

「……俺さ、自信無いんだよ自分に。
駿介だけじゃない、他の奴らにもいっぱい嫉妬してる。さっきまで一緒に笑い合ってた奴を、次の瞬間妬んだりなんてしょっちゅうなんだよ。
ごめんな……こんな汚くて。こんなちっせーやつで」

了平は二本目のドクターペッパーを開けると親父がビールを飲むようにやけくそに飲んだ。

駿介はしばらく黙っていたが、小さく頷いてドクターペッパーを一口飲んで言った。

「俺は了平と翔太の家庭がすごく、良いと思う。そのことについて2人を恨んだことはないけど、時々考えるんだ。
なんで俺にはお母さんがいないのかって。
……小学校で母の日ってことでお母さんの似顔絵描いたやつあっただろ、覚えてないか」

確かあった気がする。革命的に絵が下手くそな俺は、母さんとは思えないクリーチャーと、その周りに真っ赤なチューリップを描いた。
家に帰って母さんに見せると、大爆笑された挙句、美由紀や父さんにまでそれを見せびらかされた。
翔太は将来ピカソになれると言われたのは良い思い出だ。

「俺、何を描けばいいかわかんなかった。だって俺さ、お母さんいないんだもん。
ムカついて、真っ黒の絵の具でお母さんって字だけ描いてやった。書き初めだぁって笑ってたけど、あの紙を帰り道ドブに捨てながら泣いたんだよ。
この歳になってもまだお母さんって言っちまうんだ。
ありえないけど、家に帰ると母さんが夕飯作っててお帰りって迎えてくれる。……そういう妄想ばっかりしてる」

駿介の手が、声が、胡座をかいている脚が、震える。

「羨ましい、って思うんだ。みんなが体験してる母親がウザいとか、夜更かしするなとかケータイ触りすぎだとか口うるさいとか……そういうの、めちゃくちゃ羨ましいんだ」

駿介はドクターペッパーをあおった。
口の端っこから飲みきれなかったドクターペッパーが零れ、首筋を伝った。