「なぁ翔太、放課後予定あるか?」

六時間目の退屈な数学の時間、了平が後ろから話しかけて来た。

「特になんもねぇけど」
「ゲーセンいかね?」
「駿介はどーすんだよ」
「ほっとけばいい」

ふと駿介を見ると昼休みと同じように机につっぷして寝息をたてて寝ていた。

俺もイケメンに生まれていたらこんなふうになっていたんだろうか。
夜遊びして、他校の子と遊んで。

羨ましいとは思わないけれど。

了平は了平でそんな駿介に意地悪がしたいらしく、気にくわなさそうな顔で寝姿を横目で見ている。

ハブる、というのはこれまでも友達に対して何度かあったけれど、了平と駿介を対象にしたことはない。
いつだって俺たちはいっしょで。
いつだって俺たちはずっと。

「ほんと、なんなんだよあいつ」
「……」

俺は正直、少しだけ駿介がかわいそうだと思った。
かといって了平と対立するのも避けたいし、一度くらいどうってことないだろう、と無理やり自分を納得させた。



ゲーセンはいつもみたいにUFOキャッチャーに数百円投資しただけで終わった。
いつもみたいにレーサーゲームをして、一息ついてジュースを飲む。
始終イライラしている了平はトイレに行っているので、俺は深いため息をついてリラックスできた。

アミューズメントコーナーの天井は深い赤色で塗られている。
すぐ近くにある喫煙所には俺たちとあまり歳が変わらない男女がタバコ片手に談笑していた。

バカやるのもいいけど、なんだか疲れちゃうんだよな。
だいぶ前に俺が駿介に言ったことは決して嘘でも負け惜しみでもない。

喫煙所に入り浸る男女がぞろぞろと這い出てきた。
ガラの悪そうな男に派手なメイクをした女が俺の目の前を通り過ぎて行く。

駿介はあんなのといつも絡んでいるのか、と少し想像したけれどいまいちしっくりこない。
俺の中の駿介は好きな女の子にフラれて一週間引きこもった駿介と、変わらないままなのだ。


髪を金や茶色に染めた、いかつい男の中に埋もれるようにして、かっちり制服を着てる真面目そうな男子生徒が見えた。
喫煙所の人口密度が高すぎてよく見えなかったのだ。あんなキャラの違うやつがいたなんて。

カツアゲか?と思ったけれどどうやら彼自身が不良達について回っているようで、甲斐甲斐しくジュースを渡したり、荷物を持ったりしている。

背中姿で顔は見えないけれど、俺はそのシルエットに覚えがある。


「悪ぃな、トイレ混んでてさ。そろそろ帰るか」
「あ、あぁ」

美由紀に渡すつもりのUFOキャッチャーの戦利品を片手に立ち上がった時、例の男子生徒がこちらを向いた。
俺は棒立ちになって動けないくらいびっくりしたけれど、了平はそんなことに気づいていないようで早く行こうと俺の腕を引っ張った。