昔から人の死に出くわしやすいタチだった。


記憶の中でも1番古いだろうその光景は糸をたぐりよせるかのようにして思い出すことができる。

5歳になった年の大晦日、父さんの実家に帰省する時の出来事だった。
電車のホームの椅子に座って荷物番をしながら、父さんと母さんと美由紀がトイレから戻ってくるのを待っていた。


流れる雑踏に酔いそうになりながらも人々が活発に目の前を行き交うのは、どこか楽しかったのをよく覚えている。

すると1人、煌びやかな群衆にそぐわない、古ぼけたスーツを着た枯れた感じのおじさんが俺に近づいた。

「ぼうや、此処で何をしているんだい」
「とーさんとかーさんといもうとをまってるの」
「おじさんと一緒に、行かないかい」
「だめだよ、にもつ、みてないといけないし」

鶏ガラのような男だった。禿げ上がった頭と歪んだ眼鏡が妙にマッチしていて、不幸なオーラが全身からにじみ出ていた。

「そうかい」

おじさんは意外とあっさり引き下がるとすぐ目の前の電車待ちの列の一番前に並んだ。

アナウンスが響く。
まもなく特急が通過します。白線より内側に下がってください……。

俺はおじさんが並んだ列をなんとなくぼーっと見ていた。

すぐに目立つ色の特急がすごい早さで駆け抜けて行った。

おんなのひとの叫び声がした。
あたりのひとが悲鳴を上げて、みんなとても驚いた表情をしていた。


駅員さんがやってきて、警察絡みの人もやってきたところで、おじさんが線路に身を投げたんだとやっと理解した。

するとそこに父さんと母さんと美由紀が帰ってきて、事の惨状を目にすると父さんはすぐに俺を抱きかかえ、遠く離れた場所に移動した。


これが、俺の目にした最初の死だった。