澄み切った青空はこれから鬱陶しい梅雨がやってくるなんて思わせないくらい爽やかだ。


「もう二度と私に会いたくないんじゃなかったの?」
「……気が変わったんだよ。あんたも言ってただろ、人の考えは変化するって」

前みたいに昼休みに屋上で待っていると予想通りに遥は現れた。

相変わらずの黒くて長い髪の毛、細くて白い脚。
美人だし、頭も良いのに、どこかズレている。
神はやはり二物は与えないのだ。

「確かにそうね」

遥は俺の隣に座ると膝を抱えた。
ささやかな膝小僧に顎を置くとため息をついて、俺の手元の弁当を見る。

「……欲しいのかよ」
「私は一日二食なの」
「食わねぇと身長も胸も成長しねぇぞ」
「どこかの研究で、カップ数が小さいほどIQ値が高いって研究結果があるのよ」

そうは言うもの、俺が口に食べ物を運ぶ姿を凝視している。
前は食べる姿を見られるのがとても嫌だったけど、なぜか今はなんとも無くなっていた。
むしろ心地いいとすら思える。

「卵焼き、いるか」
「与えてくれるんだったら享受するわ」
「どーぞ」

さすがに恋人同士みたいにあーんということはできなくて、俺は箸を渡して遥に卵焼きを食べさせた。


「遥」
「なに?」
「死んだ人が死んだことにされてないって、どう思う?」
「死は生と並ぶひとつの存在理由だから。死が無い限り、その人が生きていたという証は薄く淡白なものになるでしょうね」
「……死あっての生」
「逆も言えるわ」

肉巻野菜を口の中に押し込んでじっくり咀嚼する。
成長期の男子高校生の胃袋にそれらはあっさりと吸収されていく。

「今日大切なひとの墓参りに行こうと思う。……やっと俺の中でその人は死んだから」
「おめでとう」
「おめでとう?」
「死を受け入れるのは成長のひとつだもの」

伏せられた遥の横顔が何かを物語っているように見えた。

包帯を巻いた左手首が赤く滲んでいるのを見て、昨日切ったんだな、と思った。