「……久しぶりですね」

あのあと愛花姉ちゃんをこちらに呼び戻して、とりあえず近くの喫茶店に引っ張って行った。
愛花姉ちゃんは相変わらず塞ぎこんでいるようだったけれど、俺がケーキと紅茶を頼んで食べさせたら少しだけ笑顔になった。

「大きくなったわね」
「もう高校生になりました。N高校に通ってます」

何年ぶりかに対面したせいで柄にも無く敬語になってしまう。

透き通った白い肌や長いまつ毛は、あの頃の愛花姉ちゃんの面影を残していて、そしてますます綺麗になっていた。

「愛花姉ちゃん、今はどうしてるんですか?」
「何も……何もしてないわ」

仕事をしている様子は無いし、かといって親戚は愛花姉ちゃんの話題を出さないから遠い精神病院に移されて、久々にこちらに戻ってきたのだろうか。

となると親戚の連中は非道い。
なんなんだよ、愛花姉ちゃんが死んだなんて抜かしやがって。
本当はこうして、精神病院に長期入院することを隠したかったくせに。


妹の美由紀もきっと喜ぶだろうし、家に来ないかと誘ったけれど愛花姉ちゃんはもう帰らないといけないからと遠慮した。
とりあえず駅まで送っていくと半ば無理やり言って、俺は愛花姉ちゃんを喫茶店から一番近い最寄りまで送って行くことにした。

もうすっかり夜に落ちた街並みは眩しいくらいに華やかで、今こうして並んで歩いている俺と愛花姉ちゃんは、もしかしたら恋人同士に見えるんじゃないかって思った。

ずっとこうしていたい。そう念じていた時だ。

「……お兄ちゃん?」

目の前にあった塾の看板のかかっている3階建てのビルから、肩にカバンをかけた美由紀が出てきた。