「よぉ」
「あれ?玲、帰ったんじゃなかったの?」
「お前のこと待ってた」
「え⁉待っててくれたの?」
いつもとっとと家に帰るのに。
そしてそのまま玲と一緒に帰った。
「なあ、ちょっと話さねぇ?」
「うん。いいよ」
「じゃあ、公園でも行くか」
家に帰る途中、玲とあまり人がいない公園に寄った。
「…お前さぁ、最近何かあった?」
「…え?」
「…いや、顔に出てるなって思って」
「…………」
「俺には話せない?」
このとき、玲には話しても大丈夫だと思った。
「……実はね、お父さんがうつ病になっちゃって、最近家族ばらばらで、昨日私誕生日だったのに何も言わず実家に帰っちゃってさ〜…」
「…そうだったのか」
「もう、誕生日も忘れちゃったのかなって…」
私は見上げた空に見える星を見て、なるべく玲には気づかれないように涙を流した。
すると急に後ろから温かい温もりに包まれた。
…え?
…私もしかして、抱きしめられてる…?
玲が…?
驚いて声も出ない私に玲が話し出した。
「…俺はな、中学に入学してから環境が変わったのに慣れなくて体調を崩したんだ」
「うん…」
何だろう…
抱きしめられてるからか、近くにいるからか、凄いドキドキする…
それでも私は、真剣に玲の話に耳を傾けた。
「昔から騒がしいところって苦手でさ。
特に女子の声が。それで調度起立性調節障害ってやつになって学校を休むいい理由になると思った」
「…私と同じ病気だ…」
「うん、そう。多分休み始めたのお前と同じ頃だったと思う」
「…そうだったんだ。だから教室で見なかったんだね」
「俺担任からお前のこと聞いててさ」
「え?」
「一人じゃないから心配するなって」
「そうなんだ…」
そういえば私も、担任の先生から苦しんでるのはお前だけじゃないから大丈夫だ、って言われたときがあったな。
でもその人の名前までは知らなかった。
まさか玲だったなんて…
そこまで話すと玲は私を離して向かい合う形になった。
近くで見ると、余計にかっこいいな…
顔立ちはっきりしてるし、肌も凄く綺麗…
…………あれ?
そういえば前に桜が私と同じクラスに女子が騒いでいたかっこいい人がいるって言ってたな…
それって玲のことだったのか…
玲も休んでたから見ないのも無理ないって訳か…
なんて一人で思っていると。
「…俺は小学三年の頃に親が離婚してる…」
「…え?」
「それで、父親はその後事故に遭って死んだって聞かされた」
「…………」
「だから今は母親と姉貴と三人暮らし」
「…………」
「親が離婚してから、なんか人が苦手になった。一人でいるほうが気が楽っていうか…」
「……うん」
どれも衝撃的な事実ばかりだった。
玲が過去にそんなことを抱えていたなんて…
いつもクールでかっこいいと思っていたけど、きっと昔は辛かったんだよね…
……今度は私から玲に抱きついた。
玲は凄く驚いていたけど、すぐに受け入れてくれて抱きしめ返してくれた。
玲は、凄く温かかった。
「お前がカナリアに来て、正直驚いた。同じ制服で、直感で担任が話していた同じクラスの女子かなって」
「うん。私もびっくりだったけど、同じクラスだったとは思わなかった」
「まあ、同級生で不登校なのって俺らだけみたいだしな」
「はは、そうだよね」
そこまで話すと、お互い離れた。
きっと、お互い同じ温もりを求めていたんだよね…
玲と話している時間だけ、なんか穏やかに過ぎた。
もうだんだん空が暗くなってきて、一番星が見え始めた。
「そろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
「家まで送ろうか?」
「ううん、大丈夫一人で帰れるよ」
「そうか、分かった。じゃあ、また明日な」
「うん。なんか、今日はありがとうね」
「……俺、女子って苦手なんだけど、カナリアで初めてお前を見たとき昔の俺と同じ目をしてて、なんか放っておけなくなったんだ。さっきは抱きしめて悪かったな」
「ううん。気づいてくれてありがとう。私こそ抱きついちゃったし、ごめんね?でも、同じ不登校を経験してる人に会えてなんか心強いよ」
と笑顔で言ったら、少し玲の顔が赤くなった気がした。
気のせいかな?
「じゃあ気をつけて帰れよ。まあ、痴漢に遭うことはないだろうけど…(笑)」
「失礼な!私だって一応女ですー!」
そう言ってお互い笑った。

