浴室から出ると、要さんがココアの入ったマグカップを差し出してくれた。


俺は受け取ってソファーに腰を下ろす。



要さんはその隣に。



「ん、美味しい。」
「そうか。」



要さんはそれ以上何も言わなかった。




ココアにもう一度口を付ける。

それから息を一つ吐き出して、俺は口を開いた。



「…俺の話したら、もしかしたら要さんは軽蔑するかもしれない。それぐらい俺は汚いこともやってきたんだ。」


生きるためにね、と俺は要さんに笑んだ。




「要さんがどこまで俺のことを知ってるのか分からないけど、俺が入れられていた施設は地獄だった。いや、違うな。俺を担当していた人間が悪魔だったんだ。」



自然とマグカップを握る手に力が入る。




「さっき言ってた“あの人”ってのは、そいつか?」
「うん。要さんが俺を引き取る少し前に突然姿を消したんだ。当時は深く考えなかったけど、今思うと逃げたのかもね。」