「ーーってことで、暫く帰りが遅くなります……。晩ご飯も試験終わるまでお休みさせてください。」


その日の夕食時、事の一連を要さんに話す。

まぁ、予想はしていたけど、それはそれは不機嫌なご様子。


「………そこまでしなくても満点ぐらい取れるだろ。」


あ、ちょっとムカつく。


「要さんならね!俺には無理!」
「だったら俺が見てやる。」
「だーめ。要さんだって仕事あるじゃん。」
「涼と仕事なら、涼を取る。」
「だからダメだって言ってるんだよ。」



なんて予想通りな回答をしてくるんだろ。

納得のいかない要さんは箸を置き、真剣な眼差しを向けてきた。


「涼、」
「な、何……?」
「もう就職を考えろ。俺の専属嫁契約でも結ぶか?」
「……………………………」
「喜べ、死ぬまで養おう。」
「……………………ご馳走さまでした。」



なんて、残念な大人だろう…………。


深い溜め息をついて、ダイニングから立ち上がる。



「こら、話はまだ終わっていない。」
「終わりました。全然会話が噛み合いません。」


食器を片そうとした手を要さんに掴まれ、仕方なく動きを止めた。


「俺は認めないぞ。どこの馬の骨とも知れない男の家に上がり込むなんて。」
「高島は俺の友達!良いやつ!」
「そんなの表向きかもしれない。」


アニメやドラマじゃあるまいし……。


「要さんがなんと言おうと、絶対やるから。俺の進級が掛かってるんだからね!」
「………じゃあせめてこの家でやれ。」
「だめ。絶対だめ。」
「やっぱり許してやれないな。」
「もういいよ、勝手にするから。」


もう、何でこんな我儘なんだろ…。


掴まれた手を振りほどこうと力を入れるも、それ以上の力をさらに込められる。


「要さん、いい加減離してーー」
「…………心配なんだよ、お前が。」

少し声のトーンを落として要さんが言う。


「傷つけたくない、手離したくない、守りたい、誰にも渡したくない。」
「…………」
「俺はある程度の事は何でも出来る。だから常に堂々と生きてきた。けど、お前だけは違う。」
「…………」
「好きになるほど、愛しくなるほど、不安で怖くて堪らない。いつでも離れていってしまいそうで、この手を掴めなくなりそうで、俺はそれが堪らなく怖いんだ。」



この間の旅行から要さんは少し変わった。

弱さを見せてくれるようになった。


それは不快なことではなくて、むしろ心地よいぐらい。

俺だけが知れる要さんの弱さ。


「………ごめんね、要さん。不安にさせたい訳じゃなんだ。要さんの気持ち、分かるよ。俺も同じだから。でもね、今大学を辞めるわけにはいかないんだ。俺が要さんとずっと一緒いるために必要なことなんだ。だから信じてよ。大丈夫、本当に何もない。離れないから。」
「…………何かあったとき、包み隠さず俺に報告すると約束できるか?」
「いいよ、約束する。」


しっかりと要さんの目をみて、言い切る。
しばらく視線を合わせた。
先に逸らしたのは要さんだった。

「……分かった。あまり無理はするな。」
「ありがとう!」


嬉しいさと温かさ。

ーー俺達、ちゃんと成長してる。