『第十章 平凡男子の過去と現在』


要さんとの旅行を満喫してから数週間。


俺は今、それはそれは高ーい壁にぶち当たっている。


「西條、そんなに気を落とすなって。」
「だ、ダメだ……俺はもうおしまいだ。」
「まだダメって決まったわけじゃないだろ?」


高島が優しく肩に手を置いてくれたが、今の俺にはその優しさも辛い。

そろそろ進級のこの時期、俺は予想通り見事に単位が足りず……。

俺に課せられたのは、次のテストで満点を取ること。

はっきり言って無理……。


どんだけ範囲あると思ってるんだよ…。
俺の頭じゃ無理に決まってる。要さんならまだしも……。


要さんに頼んで勉強みてもらおうか……?
いや、要さんだって仕事があるんだ。迷惑かけられない。

もともと要さんのせいでもあるんだけどさ。


「い、今から勉強すれば間に合うって!」
「無理だよ、俺の頭じゃ。留年は出来ないし、真面目に就職考えようかな。」
「西條、諦めんなよー!」
「せめて高島ぐらい出来が良ければ……そっか!それだ!」


隣の友人をみて、俺は期待の眼差しを向けた。


「高島!」
「へ?」
「俺に勉強教えてくれ!頼む!」


両手をあわせて、頭を深々と下げる。


「なーんだ、そんなことお安いご用だよ!」
「あ、ありがと~~~!高島、本当にお前って良いやつ!」

持つべきものは友人だな。うん。

「じゃあ、西條のバイト休みの日にやろう。時間がないし、なるべく試験までの間は毎日やりたい。」
「その方が助かる。バイトも事情話して少しの間は休ませてもらうよ。」
「それがいいね。明日からどう?飲食店だと集中出来ないだろうから、場所は俺の家でいい?」


高島の申し出は有難い。
あそこは要さんの家だし、迷惑になるようなことはしたくない。


「うん、それで頼めるかな?本当にありがとう。」


高島には本当に感謝だ。


残る問題は………

要さんの機嫌をどう取るかだなぁ………。