「突然何も言わずに出て行くからビックリしましたよ」

深夜の宿営地。

麗華が谷口に向かって言う。

「ああ…すまない…」

パイプ椅子に座り、テーブルの上で両手を組んだまま、谷口はごく小さな声で詫びた。

「それにしても…」

ブラックのコーヒーを淹れたマグカップを両手に持って、豊田は小川に、そして谷口に差し出す。

「よく聞こえたわね、銃声なんて」

この宿営地から海岸までは相当な距離がある。

幾らゴーストタウン化して静まり返っているとはいえ、外は降りしきる雨。

89式小銃の銃声が聞こえるとは…。