「よし、行くぞ」

小暮が腰に固定具(ハーネス)と安全環(カラビナ)を装着する。

急斜面、壁面、ホバリング中のヘリコプターなどからロープを使って降下するラペリングの技術は、軍隊では必須とも言える技能だ。

斜面、林、水没地帯などの着陸不能な地形でヘリボーン、救助活動などを行う際に用いられる。

また特殊部隊が高層ビルなどに突入する際、屋根からラペリングを経て窓から侵入する事がある。

基本的にはロープ(それと健常な四肢と相応の筋力)さえあれば実行は可能。

レンジャー資格を持つ隊員ならば、まずこなせるだろう。

屋上からロープを垂らし、固定具にそのロープを通して、壁面を伝って降下していく小川と小暮。

花やしき園内に突入した途端に、カマドウマ達が群がってくるが。

「閃光発音筒!」

小川が叫ぶと同時に、小暮が筒状の手榴弾を投げる。

数秒後には約100万カンデラ以上の閃光と、1.5メートル以内に160デシベルから180デシベルの爆音(飛行機のエンジンの近くで120デシベル)が発生!

閃光発音筒とは戦術自衛隊での呼称であり、平たく言えばスタングレネードである。

ハイジャックなどの人質事件では安易な殺傷が許されない為に用いられる事が多い。

この手榴弾は爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、それらに伴うパニックや見当識失調を発生させて無力化する事を狙って設計されている。

人間に限らず、カマドウマにも効果を発揮するのだ。