駐屯地内の食堂に向かうのは、谷口と豊田。

被災地での遭難以来、すっかり仲睦まじくなった二人である。

「何食べる?」

谷口と並んで歩きながら言う豊田は上機嫌だ。

「そうだな…久し振りに駐屯地で食う食事だからな…ここ最近戦闘糧食ばかりだったし、ちゃんとした食事が食いたいな…」

「そうだねぇ…私も先週はレンジャー養成課程で碌なもの食べてないし…」

サバイバル訓練で蛇や蛙を食べたのを思い出してゲンナリする豊田を見て、谷口が苦笑いする。

戦術自衛隊内部においては、勤務内容に応じて様々な形態の食事が隊員にあてがわれるが、主に基地内における給食では、勤務や訓練で消費するカロリーをとにかく補給させる為、比較的ボリュームに富む場合が多い。

この場合調理は大胆を極め、昔はキャベツの千切りは極端に希釈した漂白剤で殺菌されたりもしていた。

これは衛生面を意識したHACCP(食品衛生法の一種)によるものである。

如何なる事態でも隊員の健康状態が重視される事から、衛生面における配慮は厳密に成されているが、味覚の面ではあまり…というのは、どこでも伝統に則ったもののようである。

しかし戦術自衛隊の給食は近年格段に味が良くなっており、基地(駐屯地)によってはレストラン並みの食事が支給される所もある。

これは基地(駐屯地)に所属する栄養士の献立による部分が大きく占め、基地(駐屯地)ごとの差が大きい。

また戦術陸上自衛隊に比べ戦術海上自衛隊、戦術航空自衛隊の給食の方が味が良いと言われている。

これは戦術陸上自衛隊の場合は人員が多く、また調理に当たる隊員の多くが他の職からの差出となっている為、どうしても味が大味になるとの事である。

戦術海上自衛隊、戦術航空自衛隊の場合は調理に当たる隊員は専門職であり、徹底的な調理の教育を受け実施している。