時計の針は、もう9時を刺していた。
「やばッ!もうこんな時間!急がないと遅れちゃう」
「もう9時か・・・悪かったな、時間とらせて。
先に区役所行ってくるんだったな?」
「うん。それからあたし達は直接式場に向かうから」
「そうだな、その方いい。先に行って向こうで待ってるよ」
あたしは勢いよく立ち上がると、慶介の腕を引っ張った。
ほぼあたしに引きずられるように慶介は立ち上がるとあたしの手にそっと触れた。
「・・・・・?」
「ちょっと待ってて」と言う風にあたしを見つめると慶介はお父さん達に向き合った。
そして、真っ直ぐに前を見てこう言った。
「未熟者で至らない俺ですけど、
俺の生涯をかけて葵さんを愛していきます。
今日からよろしくお願いします。
お父さん、お母さん」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
慶介はそう言うと礼儀正しく、ぺこりと頭を下げた。
あたしは慶介の背中を見つめたまま身動きがとれなくなっていた。
もう、息をするのも忘れてる。
もう、せっかくのメイクも台無しだ。
涙でマスカラなんかすっかり取れちゃってる。
でも、そんなのどうだっていい。
慶介の一世一代の愛の告白が聞けたんだ。
どうしよう・・・嬉しいよ・・・・・
そして、不意に両親に視線を向けると・・・・
「ぷッ」
お母さんもお父さんも、あたしと同じ。
顔中、涙でグチャグチャだし。
「まだ泣くには早いだろぉ?ほんとなにやってんだよ。
慶介さん、そのセリフ・・・反則っすわ」
亮は、頬杖をついたままそう言うと、あたし達を呆れ顔で眺めた。
でも、あたし知ってるんだよ?
そう言った亮がちょっとだけ鼻をすすったの。
ありがとう・・・みんな。
あたし、幸せになるね。



