「慶介・・・・あたし思い出したよ」
あたしはそう言って、慶介の横を通り過ぎるとステンドガラスを見上げた。
「あたし達、5年前に会ってたんだね」
「・・・・・・」
黙ってあたしの言葉を聞く慶介。
あたしは慶介に背を向けたまま“あの日”を振り返った。
―――――・・・・・
―――・・・
『ここ・・・・だよね?お父さんの会社・・・・・』
『・・・・・・・うん。お父さんどこかな?』
あの時、あたしはまだ12歳。
亮と二人でお父さんの会社に大事な書類を届けに来たんだ。
駅を幾つも乗り継いでバスに揺られて・・・・あたし達姉弟にとって二人だけで出かける初めてのおつかいだった。
もちろん、あたしはもう6年生だったしおつかいくらい行ってたけど、こんなに遠くまで出かけたことがなかったんだ。
今思えば大した距離ではないんだけど、小学生のあたし達にとっては一大事。
もう、すごく緊張して・・・亮とずっと手を繋いでた事を思い出した。
受付のお姉さんにお父さんの居場所を聞いておきながら、場所なんてわかるわけもなくてただ闇雲にあるいて社内で迷ってた。
ようやくお父さんの顔が見えた時は嬉しくて思わず涙が出そうになったことを覚えてる。
『えらいな、二人とも。ちょっと待ってなさい、今ジュースを出してやろう』
そこに現れたのが、その時お父さんの上司だった村上さんだった。
ちょっと小太りで、優しそうな笑顔が印象的な村上さん。
もう、定年目際でほとんど仕事を引き継いでしまった村上さんは暇を持て余していてあたし達の相手をしていてくれたんだ。



