目の前の男が、クリスマスソングを熱唱してる。
あたしは、レモンティーの入ったグラスを持ってそれをぼんやりと眺めた。
合コンといえばカラオケ。
暗い室内に、他のみんなは楽しそうに笑ってる。
美羽も笑ってる。
でも、ごめん。
あたし、笑えない。
「はぁ・・・」
無意識に溜息をついちゃう。
「葵ちゃん」
耳元で囁かれ、あたしは声のした方へ視線を向けた。
スピーカーから流れるメロディと歌声の中から、やたらとクリアに聞こえた声。
あたしを呼んだのは、嘘くさい笑顔が印象的だった“紫”の彼だった。
今までぼんやりしてて気づかなかったけど、隣に座る彼の位置がとても近い。
肩はしっかり触れているし、椅子にどっかり座っている彼の足も、あたしの太腿に張り付いていた。
ドクン―――
急に胸が波打ちだした。
や・・・やだ・・・。
あたしを覗き込む彼の瞳がふっと笑った。
そして、またあたしの耳にその唇を寄せた。
「つまんない?」
「え?」
そう言われて、あたしはまた彼の顔を見返した。
視線が絡まり、慌てて手元に視線を逸らした。
「そっ・・・そんなコトない・・です」
挙動不審のあたしを見て、可笑しそうに「ふーん」と言った彼はなんて名前だっけ?
たしか、最初に自己紹介したと思ったけど・・・まるで聞いてなかった・・・
なんだっけ?
えーと・・・・
ジュ?
ジュンだっけ・・・・?



