『・・・ぁ・・・ぃ・・・葵?』
「え・・・ああ・・・な、なに?」
きゃああああ
しまったぁ!
瑛太と電話してるのすっかり忘れてあたしってばまた、妄想しちゃってた・・・。
話を聞いていなかったのを悟られないようにあたしは平然を装った。
『・・・・・はあ』
受話器の向こう側で瑛太の溜息が聞こえた。
「だから、なんなの!?」
頬が赤くなるのを抑えながらあたしは携帯を持つ手を変えた。
『葵に伝えときたくて・・・。
俺、あれからちゃんと親父に会いに行ったんだ。
最初は取次いでもらえなかったけど・・・・
何時間も粘って、そんで慶介さんも協力してくれて親父を説得した。
ちゃんと話できたよ。
俺の夢の事も・・・・それから・・・・
親父の会社の事も』
「そっかぁ!よかったじゃないっ」
・・・・そっか。
ちゃんと説得できたんだ。
でも、もっと喜んでいいはずの瑛太の声がなぜかとても沈んいた。
「瑛太?」
さっきまで走っていたと思われる瑛太はいつのまにかどこかに立ち尽くしているようだった。
『・・・・・葵・・・・・親父が・・・やく・・・・きした・・・』
「え?」
瑛太の声がノイズに混じってしっかり聞き取れない。
もう一度聞きなおそうとしたその瞬間―――
『ピンポーン』
誰か来た・・・?
妙に耳につくインターフォンの電子音。
あたしは携帯を握り締めたまま窓から玄関を覗いた。



