「葵」
「なっなに?」
急に名前を呼ばれて、あたしの体はビクンと小さく震えた。
そしてゆっくりと視線を慶介に向けた。
慶介は、ソファに浅く腰をかけて首を後ろにもたげている。
「おいで」
ええぇ?
そう言って、両手を広げて見せた慶介はにっこり笑った。
あたしの顔は見る見るうちに赤く火照っていく。
“早く”と言うように、広げた手をクイッと動かした。
「・・・・・・」
あたしは渋々慶介の傍による。
「きゃっ」
慶介はあたしの腕を掴むと自分の方へ引き寄せた。
暖かな柔らかい感触。
慶介の甘くてほんの少しだけ苦い香り。
あたしはそれだけで鼻の奥がツンとしてしまう。
慶介は抱き締めた腕に力を込めた。
「・・・・ごめんな」
「・・・え?」
耳元で聞こえる低くて少しかすれた声に、そこからあたしの体は反応してしまう。
あたしは慶介の顔を見上げた。
息がかかるくらい近くにある慶介の綺麗な顔。
メガネの奥の瞳があたしを映してる。
「今まで黙ってて悪かった」
「・・・・」
あたしは、唇をキュッと結んだまま首を振った。
簡単に話せるような内容じゃない。
どんなに辛かったか・・・・
まだ、両親がなくなって4年しかたってないんだもの。
あたしなら、きっとまだ引きずってると思う。
「話してくれてありがとう」
あたしはそう言って、精一杯の笑顔を作った。
あたしに出来る事はこれくらいしかないから。



