「葵と一ノ瀬君が結婚する理由?」
「うん」
あたしの唐突の質問に新聞を読んでいた父が顔を上げた。
大事な娘をお嫁にやるんだもん。
お父さんだって、とっても考えた事に違いない。
だから、真実もちゃんと聞いてるはず。
そして、父は少し迷って、言いにくそうに口を開いた。
「理由か・・・・・・・理由は、特にないなぁ」
「はあ!?」
はあああぁ!?
特に、なしっ!!?
開いた口が塞がらない。
目の前の、この父親は大事な大事な娘が嫁ぐってのに、その理由が『特になし』かい!!
あたしは、言い返そうとしたけど、その力もなくなってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・葵、一ノ瀬さんとうまくいってないのか?」
あたしの様子を気にして、父は遠慮がちに聞いた。
絵梨ちゃんがうちに来たんだ。
無理もない。
でも、お父さんに心配かけらんないよ。
いくら、お父さん達が決めた結婚でも、今はあたし達の問題。
二人の事にさせて欲しい。
「大丈夫だよ。なにかあったら、また言うから」
「・・・・・そうか」
あたしはそれだけ言うと、父に笑顔を見せた。
やっぱり、明日、慶介に会いに行こう。
明日は土曜日だし・・・ゆっくり、なにを言うか考えよう。
そして、もし・・・・二人に別れが訪れたとしても慶介に伝えたい事があるの。
『あなたに会えて、幸せでした』って。