「千夏ちゃんもショックで塞ぎ込んでるよ。何もしないことを選んだのは間違いだったのかもしれない、って。マリアちゃんにも合わせる顔がないからって、今日も来なかったし」

「コウがそんなこと思うわけないのに。私だって思ってないし」

「だからこそだよ、きっと。人間、責められない方が辛い時もあるからさ。罵倒された方が楽なんだよ、千夏ちゃんは」

「そっか。難しいね」


私たちはただ、自分が正しいと思った道を進んだだけなのに。

なのに、皮肉な話だ。


これじゃあ誰も幸せにはなれないじゃない。



「ねぇ、ダボくん」

「うん?」

「私とコウってさ、何だったのかな」

「……え?」

「私とコウは、どうして出会って、どうしてこんなことになっちゃったのかな」

「コウがそれを望んだからだよ」


ダボくんは短くなった煙草を地面に落した。



「コウが初めてマリアちゃんに声掛けた時のこと、覚えてる?」

「え? あ、うん」

「前からコウはマリアちゃんを見てたんだけど。あの日、ユキチが酔っ払って空気も読まずに『あの子に声掛けてくる』って言い出して」

「何それ?」

「したら、コウが止めたんだよ。『あの女はこれから俺と付き合う運命なんだからお前は出しゃばるな』って言ってさ。俺とカイは大爆笑だったけど」

「……『運命』ねぇ」

「まさかほんとにナンパが成功するなんて、って感じだったけどさ。強い意思で念じれば叶うこともあるっていうけど、だからこれはすべてコウの望み通りの結果なのさ。それを『運命』と名付けるやつもいるけど」


カラスは私たちの上空で旋回する。

自由に飛びまわっている。



「コウは幸せだったと思う?」

「当たり前でしょ。あいつが幸せじゃないなら、世界中のみんなが不幸のどん底だよ」