カイくんは私の前で立ち止まる。



「馬鹿なマリアちゃんに、最後に教えといてあげるよ。さっきの『何で』の答え。冥土の土産ってやつだ」

「……え?」


真っ直ぐに私に向けられた銃口。

カイくんと、それを、交互に見る。



「どうして俺がヤクザなんかになったと思う? 別に人生を悲観して血迷ったわけじゃないんだよ。俺は、拳銃が欲しかったんだ。拳銃を手に入れて、人を殺したかったんだ」

「………」

「で、その罪をすべてコウになすりつけたかったんだよ。コウに、死ぬよりもっと苦しいことを与えるために」


カイくんは歪んだ顔で笑っていた。



「コウが死んだんじゃ意味がない。コウは一生、やってもいない罪を償うために刑務所の中で生きるんだ」

「………」

「日本では普通、ふたり以上殺したら死刑なんだ。コウはきっと死刑になるだろうな。いつ自分に刑が執行されて殺されるかわからない不安の中で、何年も何年も生きるんだよ?」

「………」

「地獄だよね。俺なら嫌だよ。発狂しちゃう。でも、コウはこれからそれを味わうことになるんだよ」


本当に狂ってるんじゃないかと思った。

コウをおとしいれるためだけに、こんなことをしたカイくん。



「マリアちゃんだって、殺人鬼と付き合ってたっていう汚名の所為で一生世間から後ろ指を指され続けるよりは、今ここで殺されて、可哀想だと思われる方がマシでしょ?」

「こんなことしてカイくんは満足なの?」

「満足さ。むしろ幸せだね。今日の日の思い出を肴(さかな)に、いい酒が飲めそうだ」


もう、何を言っても無駄なんだ。

私は向こうにいる、体を起こそうとしたコウを一瞥する。



「おっと、動いちゃダメだよ。俺は優しいから、マリアちゃんを一発で殺してあげるつもりなんだから。でも、動いたら急所から外れちゃう。そしたら苦しいよ」


「コウみたいに」と付け加え、カイくんはコウの腹を蹴り飛ばした。

コウは「うっ」と苦悶の声を出して肩で息をする。