顔を歪めた刹那、カイくんは咥えていたまだ火のついていない煙草をコウに叩き付けた。



「何でお前に命令されなきゃならない? この状況、ほんとにわかってんの?」

「………」

「俺がこの引き金を引けば、お前は死ぬんだよ? なのに、昔と同じように偉そうに。何様だよ、コウ」


カイくんは苛立ちをあらわにする。

コウは舌打ち混じりに「じゃあ、どうしろってんだよ」と吐き捨てる。


だけどもその言葉は、カイくんをさらに煽ることになって。



「土下座」


パンッ、と、鼓膜を破るほどの音が鳴った瞬間、コウは膝から崩れた。

コウの右の太ももから、だくだくと血が垂れ流れて。



「くそっ」


コウは床に拳を叩き付けた。



「痛い? 痛いよね、そりゃあ。けど、体の傷より心の傷の方が痛いってよく言うだろ? 千夏の辛さよりはマシだよ、そのくらい」

「てめぇ……」

「ははっ。コウ、ほんとに土下座してるみたいだよ、今の体制。笑える。ねぇ? マリアちゃん」


カイくんは、言いながら、今度は私に銃口を向ける。


足が動かない。

コウの傍に行きたいのに、怖くて立ちすくんだままで。



「心配しなくてもコウは殺さないよ。そんなことをしたら俺の今までの計画が全部水の泡になっちゃうから」

「………」

「でも、マリアちゃんが死ぬのはアリだ。コウの目の前で殺してやるよ」

「………」

「飛んで火に入る夏の虫。鴨がネギ背負ってやってきた。俺としてはまさにそんな気分だよ。来てくれてありがとう」


一歩、また一歩、カイくんが私に近付いてくる。

けれど、やっぱり私は動けないままで。