コウはベランダに出て煙草を咥えた。

子供ができたとわかって以来、コウは絶対に部屋で煙草は吸わなくなった。



「しっかし、結婚式どうすっかなぁ」


吐き出した煙が闇に飲まれていく。



「金のこともそうだけど、ドレスも限られてくるし」

「私、しなくていいよ、結婚式。元々、ウエディングドレスを着たいっていう願望もなかったもん」

「でも、ばあちゃんとの約束もあるしなぁ。ドレス云々は置いといても、せめて式だけでもとは思うんだけど」

「おばあちゃんはわかってるくれるよ、きっと」

「けどなぁ」


コウは困ったように息を吐く。

ドラマの中の家族像に憧れているコウはきっと、私以上に結婚式というものにも夢を持っているんだと思う。



「まぁ、ゆっくり考えればいいじゃん。子供が生まれてから結婚式する人だっているらしいし。最近は形式とかもあんまり関係ないじゃない?」

「だな。とりあえずお前のつわりが治まらなきゃ、するもんもできねぇよな」


コウは空を仰ぐ。

満天の星が煌めいている。



「なぁ、母親ってどんな気持ち?」

「まだあんまりわかんないけど。しっかりしなきゃとは思う、かな」


コウは私の言葉に苦笑いする。


詳しくは知らないけど、コウの本当のお母さんは子供を置いて出て行ったきりで、一度も連絡を取っていないらしい。

その心境なんてわからないけれど、私はそんなことだけは絶対にしたくはないと思う。



「聖母マリア。マリアの子供は将来キリストと呼ばれるかもな」

「やめてよ、それ」

「何で?」

「キリストに父親はいないよ。聖母マリアは夢の中で神のお告げがあって、いきなり妊娠したんだよ」

「そうなの?」

「でも私のお腹の子には父親であるコウがちゃんといるでしょ」


煙草を消して戻ってきたコウは、「そっか」と笑う。