婚姻届の空白を埋めるのに、3日かかった。
間違いがないように、何度も何度も確認してから、ハンコを押した。
緊張で手が震えまくった。
「よしっ、できたー」
コウは伸びをした。
私もやっと脱力する。
「証人ふたりは成人なら誰でもいいみたいだから、適当に頼むとして」
「あとは私たちの戸籍謄本を添えて提出するだけだね」
「だな。揃ったら、すぐにでも出そうぜ」
ふたりでカレンダーに目をやった。
来週には、私たちは夫婦になる。
急に実感が湧いてきて、否応なしに背筋が正される。
「ねぇ、コウ」
「んー?」
「お父さんに言わずに勝手なことして、ほんとにいいの?」
「いいの、いいの。それにどのみち、ばれても親父はお前に対しては何も言わねぇよ。キレられるのは俺だけだし」
だからといって、いいという話じゃないと思うんだけど。
でも、何度聞いてもコウは同じことしか言わない。
私はその度に、後ろめたい気持ちになる。
「じゃあ、逆に聞くけどさ。親父に反対されたら、結婚やめるのか? 親父が子供堕ろせって言ったら堕ろすか?」
「……それ、は……」
「そんなことしねぇだろ? だから、これでいいんだよ。自分の子供の命を奪ってまで親父の言うこと聞いて、それが何になる?」
それもそうなのかもしれない。
子供の命よりも大切にしなきゃいけないものなんて、この世にはない。


