その背を見送りながら、コウは首をかしげる。



「嫌味だな、あいつ」

「そうかなぁ? ダボくん、優しい人だと思うけど」

「いや、あいつ、裏じゃひどいぞ? 特に男に対しては、扱いが雑すぎる。ダボが優しいのは女の前でだけだ」

「それってコウだって同じじゃない」

「はぁ?! 俺は違ぇよ! マリアだけだっつーの!」

「はいはい」


コウは「ったく」と口を尖らせる。


スープはすっかり冷めてしまった。

でも、冷たい方が食べやすかったからよかった。



「ダボくんはただ、コウに釘を刺しただけじゃない?」

「あ?」

「ほら、コウってあんまり周りを見ないでしょ? だから、浮かれすぎずに気をつけて身を引き締めろよ、って意味で」

「お前、俺を何だと思ってんの」

「だって、そうじゃなきゃ、いきなりあんな名前出さないでしょ。ダボくんって口を滑らせて思わず、なんて人じゃないし」


事実、それも不安のひとつであったことは確かだ。

カイくんのことも、ユキチくんのことも、何も解決していないのに、私たちはのん気に浮かれてていいはずはない。


私たちは本当にこのまま結婚してもいいのだろうか。



「とにかく、俺に任せてりゃ万事オッケーだよ。俺はほら、『一家の大黒柱』だし?」

「それ、すごい不安」

「はぁ? お前が言ったんだろ」


でも、どんなに不安があったとしても、私のお腹の中で、命は一分一秒ごとに育ってるわけで。

そう考えると、しっかりしなきゃいけないと思わされた。


たとえ何があったって、私は――私たちは、このいつくしむべき命を守らなくちゃならないから。



命を掛けても守ると決めたんだ。