ダボくんは本当に素直に言ってるみたいだった。

言わせたコウの方が逆に恥ずかしそうな顔になる。



「まぁ、突然のことだったけど、これで俺も踏ん切りついたし、これからはマリアと子供のために頑張らなきゃっつーか?」

「………」

「結婚するってだけでも嬉しいのに、その上、子供までできるんだぜ? 俺は二重で喜びを手に入れられるわけだろ? これが喜ばずにいられるかって」


照れ隠しなのか、何なのか。

コウは珍しく饒舌だった。


ダボくんは肩をすくめ、



「でも、悔しいな。何か俺だけますます蚊帳の外じゃん」

「そういうつもりはねぇよ。っていうか、それとこれは別問題だろ」

「いや、でも、父親になるんだったら、そんなの当たり前か。寂しがるより先に祝福しなきゃだよね、俺も」

「………」

「あーあ、俺こういう時、真面目な顔でどう言えばいいかわかんないや。カイとユキチがいないとダメだな」


と、言った後で、少しバツが悪そうな顔になったダボくん。


別に禁句だったわけじゃない。

けれど、あれ以来、誰もその名を口にしなかったから、急にしんみりしてしまう。



「ごめん、ごめん。余計なこと言っちゃったね」


ダボくんは笑顔を向けた。

営業スマイルみたいだった。



「まぁ、浮かれてる馬鹿なコウはいいとして。体に気をつけてね、マリアちゃん」

「あ、うん」

「これからの方が大変だと思うけど、無理せず、周りに頼ってさ。旦那に対する愚痴くらいならいつでも聞くし」

「うん」

「何かあったら、いつでも電話してきてよ。コウにムカついたら、俺がぶっ飛ばしてやるからさ」


ダボくんは席を立つ。

そして伝票をひょいと持ち上げ、「祝儀代わりに払っといてやるよ」と言って、立ち去った。