私はひとりじゃない。

どうしてそんな簡単なことすら気付けず、不安になっていたのか。


コウは私の左手の薬指の指輪にキスをする。



「大丈夫。俺がいるから」

「うん」

「怖いことなんてひとつもない。俺らはこれからハッピーになるんだから」

「そうだね」

「やっぱり俺らの運命は正しく進んでるんだよ。出会うことも、こうなることも、決まってたんだから、その通りにすればいいだけだろ?」


コウが言うと、ほんとにそうだと思えてくるから不思議だった。

もう、不安はすべて払拭された。


コウははっとしたように私から体を離し、



「やっべぇ。早く結婚しねぇとだよ。役所に婚姻届もらいに行くぞ!」

「え?」

「いや、病院が先だ! 医者のお墨付きもらわねぇと!」


コウは部屋の中を忙しそうに動き回る。


何をしているのかと、ぼうっとそれを眺めていたら、コウはクローゼットから私のコートをとマフラーと手袋を引っ張り出してきた。

まだ10月だというのに、まるで雪山に行くみたいな格好に仕立てあげられる私。



「何これ。暑いんだけど」

「馬鹿か。腹冷やしたら流産しちまうだろ。お前はもうひとりの体じゃねぇんだから、気をつけろ」


いきなり父親らしくなったコウ。

私は笑ってしまった。


なのにコウは、また部屋を動き回り、「転ぶといけないから」と言って、私のスニーカーを用意する。


何もそこまでしなくてもいいのに。

と、思ったけれど、コウの気持ちが嬉しかったから、私は素直にそれに従った。