「お兄ちゃん!」


けれど、刹那、往来するサラリーマンが、ドンッとマサくんにぶつかる。

マサくんは「わっ」と転びそうになるが、誰もそれを気に留めない。


舌打ち混じりのコウは、「とにかくこっちに来い」と、そんなマサくんの手を引き、駅の外へと連れ出した。



人の少ない場所で、コウは苛立ったように煙草を咥える。



「で、何? わざわざこっちに来て。家出でもしたのか? だからって俺には関係ねぇんだから、帰れよ、うぜぇ」


けれど、小学生の男の子が、ひとりで新幹線に乗ってここまで来たというのに、その言い草はないだろう。

マサくんは口をへの字に曲げた。



「家出じゃないよ。でも、お父さんにもお母さんにも内緒で来た。お兄ちゃんに会いたかったから」

「はぁ?」

「お兄ちゃん、いっつも電話しても出てくれないし、メールだって無視するじゃない」

「いい加減、気付けよ。俺はお前が嫌いなんだよ」

「それくらいわかってるよ。でも、ぼく、お兄ちゃんに、どうしても会いたくて……」

「知らねぇよ」


マサくんは泣きそうな顔だった。

さすがの私も見ていられなかった。



「ちょっと、コウ。話くらい聞いてあげてもいいじゃない」


一喝する私に、コウは舌打ちする。

マサくんは意を決したように顔を上げた。



「これ、お兄ちゃんに渡したかったんだ」


マサくんは胸に抱えていたバッグを漁り、紙袋を取り出して、それをコウに手渡す。

コウは怪訝な顔でそれを受け取り、中身を出した。



「何これ」


何種類もの、お守りが。

神社で売っている、恋愛成就や家内安全、厄除祈願、全種類かと思うほどの量だった。