何事なの?

と、問うより先に、腕を引かれた。



「マリアも、ちょっと来て!」

「え?」


戸惑う私。

ダボくんも困惑気味に「コウ?」と立ち上がるが、



「悪ぃ、ダボ! ちょっと急用できたから、行くわ!」

「はぁ?!」


わけがわからないまま、私は店から連れ出された。


帰宅ラッシュの時間で、街は人で溢れ返っていた。

コウは走って駅の方へと向かう。



「ちょっ、待って! コウ!」

「早く!」


人波を縫って走り、ようやく駅について足を止めたコウ。

私ははぁはぁと肩で息をする。


コウは改札前できょろきょろとし、ふと、その先に誰かを見つけ、



「おい! てめぇ、何やってんだよ、馬鹿が!」


つかつかとそこに近付いて行く。


相変わらず、私には、何が何なのかわからない。

だからまだ息も絶え絶えなのに、仕方なしにその後を追い、



「あ……」


やっと、それが誰であるかわかった。

でも、どうして?



「えっと、マサくん、だっけ?」


コウの腹違いの弟が、バッグを両手で胸に抱え、佇んでいた。