「俺に謝るなよ。俺はお前が思ってるほど純粋な理由でお前の側にいるわけじゃないんだから」

「え?」

「いや、こっちのことだ。気にするな。それより、ほら、行こうぜ。ここにいたら俺らもやばいっしょ」


ダボくんは笑い混じりにコウの肩を引く。

コウは顔を覆ったまま、顎先だけで頷いた。



「とりあえず飯だな。腹が減ると人間は思考力が低下するっていうし。コウは飯も食わずに酒ばっかだからそんな馬鹿なんだよ」

「うるせぇよ」

「あ、マリアちゃん、まだあんま食えない? プリンのある店探す?」


私は思わず「え?」と言った。

でも、ダボくんも「え?」と返してくる。



「もしかして俺が飯届けてたの、知らない?」

「……うそっ……」

「嘘じゃないって。プリン好きなんでしょ? コウが『いっぱい買って来い』とか言うから、おかげで俺までプリンに詳しくなっちゃってさぁ」


じゃあ、コウがいつも電話を掛けていた相手は、ダボくんだったの?  


私は何も知らなかった。

何ひとつ、知らなかった。



「……ごめんなさい」

「いや、恩着せがましい意味で言ったわけじゃなくて。食ったの、子供の頃以来だけど、大人になっても美味いんだな、って話で」


ダボくんは、あんなことがあったのに、笑っている。

わざとなのかもしれないけれど。


対照的に、コウは悲しそうな目をしたままだった。


黒煙と灰が、空を覆う。

それでもまだ消えない炎はまるで、人の憎しみのようだと思った。