アルコールの匂いが店内に充満する。

近くにあった酒の瓶をなぎ倒したカイくんは、カウンターに置いてあった店の刻印入りのマッチを手にする。



「やめろ、カイ!」


カイくんはマッチに火をつけ、その手を離した。

ぼう、と音を立ててそれが床のアルコールに引火する。


私はよろよろと足を引いた。



「俺はコウを許さない」


火の手の向こうでカイくんの顔が歪む。

炎は次から次へと移りながら、燃え広がっていく。



「ごめんな、カイ……」

「あ? 聞こえねぇよ。それに、今更何を言ったところで、全部遅ぇんだよ」


炎がふたりの間で燃える。

それはそのまま、ふたりの距離を表していて、



「カイ……」

「逃げるぞ、コウ!」


ダボくんが私たちに言った。



「おい、コウ! 何やってんだよ! 死ぬぞ! 早く!」


茫然としたままのコウは、無理やりダボくんによって店の裏口へと連行された。

私も無我夢中でその後を追う。


裏口を出てすぐに、パリンと窓が割れて、そこから店は炎に包まれた。


辺りは騒然とし、どこからかサイレンの音が聞こえてくる。

私たちは燃え盛る店を茫然と眺めることしかできない。



思い出ごと消えゆくそれを、何もできずにただ――。