「カイ、もういい」


制したのはユキチくんだった。



「それが全部マジな話だとしたら、お前の気持ちはわからないでもない。俺がお前の立場でもコウを恨んで同じことを考えたかもしれない」

「………」

「でも、ほんとに実行したお前はもう、コウを責める資格はねぇよ。悪気があった分、コウ以下だ。クソみてぇなことしやがって」

「………」

「さんざん、ろくでもねぇことやってきた俺らでも、さすがに越えたらダメな一線くらいあんだろ。こんなの『正しい』わけねぇよ」


吐き捨てたユキチくんは、その目をコウに移す。

だけども距離は保ったままで、



「けど、俺は、コウを庇う気もねぇから。コウは千夏にそれだけのことをしたわけだし」

「………」

「それに正直、そんな話を聞かされたからって、やっぱりクスリやってたような女と今も一緒にいるお前の気持ちはわかんねぇ」

「………」

「確かに辛かったかもしれねぇよ。でもな、辛ければみんなクスリに逃げていいのか? 違ぇだろ。ただ単に、その子が弱かったからだろ」


ずきり、と胸が痛む。

私はうつむかせたままの顔が上げられない。



「コウも、カイも、どうかしてる。でも、狂ったのは、その女が現れてからだ」


舌打ち混じりのユキチくんは、



「やってらんねぇ。俺は抜ける。お前らと一緒にいたらこっちまで頭おかしくなるわ」


また、ガッと椅子を蹴り、背を向け、ユキチくんは店を出た。


カイくんはそれを見送り、ふっと自嘲気味に口角を上げる。

そして蛇のような目を細め、



「これで終わりだと思うなよ、コウ。ここからが始まりだ」


ガシャーン、と音がした。