「ほんとは、こんな女と同じ空気を吸ってるだけでも吐き気がしてたんだ。最初に会った時からずっと。俺はお前らを認めたことなんて一度もない」

「………」

「だってそうだろ? 千夏とはあんな風に別れたくせに、今度は本気で付き合ってます、結婚します、って。腹立つじゃん。コウの本性、わからせてやりたいと思うじゃん」

「………」

「恨むならコウを恨め。それか、コウなんかを好きになった自分を恨めよ」


カイくんは肩を震わせた。



「俺は正しい。間違ってない。悪いのはコウだ。コウさえいなければこんなことにはならなかった」


ぶつぶつと言いながら、カイくんは顔を上げた。

目が、血走っていた。



「何でお前だけ、いっつも幸せなんだよ! 俺が欲しいものを全部持ってるくせに、まだ足りないって駄々こねて!」

「………」

「俺とお前は何が違うんだよ! わっかんねぇよ!」

「………」

「お前だけ好かれて、お前だけ愛されて、なのにどうして! ……どうして俺がたったひとつ欲しかったものさえ奪って壊すんだよ……」


止まらないカイくんは、苦虫を噛み潰したように、さらに言う。



「なぁ、コウ。その、信じられないって顔、やめてくんない?」

「………」

「ほんと気持ち悪い。まだ俺らの間に友情なんてもんがあるとでも思ってるわけ?」

「………」

「まさか俺が出来心でやっただなんて思ってないだろ? だからお互いに謝れば一件落着です、ってか? 馬鹿じゃねぇの」


カイくんは、コウをぎろりと睨み付け、



「千夏の苦しみの上で、お前らだけが幸せになれるなんて思うなよ」

「カイ……」


コウは弱々しく瞳を揺らす。

泣きそうな顔をしていた。