手を伸ばしても、誰かに押さえつけられた私じゃ届かない。

ガッ、ガッ、とてっちゃんは拳に打たれ続ける。


私を押さえつけている手は、抵抗さえも許してはくれない。



「やめてよ、てっちゃんが死んじゃう! 離して! てっちゃん! 助けてよ!」


私は涙混じりに叫び続けた。


てっちゃんだけが私を救ってくれたのに。

てっちゃんといる世界は誰にも壊されたくなんてないし、私は一生ここに閉じこもっていたかったのに。



「マリア、落ち着け!」


私を押さえ込んでいる男が一喝した。

それでも私はぐったりとして動かなくなったてっちゃんの方へと手を伸ばす。


すると今度は私の背後にいた男が舌打ちを吐き捨て、



「とりあえずそいつ連れていけよ。あんま長居してると俺らもやべぇ。近所のやつらが通報したら終わりだぞ」


その指示を聞いた男たちは、抵抗さえ見せないてっちゃんを引きづっていった。

てっちゃんは「ぐぇー」と唸り声を上げながら、血と嘔吐物にまみれた目でこちらを見ていた。


私の伸ばした手は空(くう)を切る。



「あとはこっちでやっとくから」

「わかった。頼んだよ」


頭上でそんな会話が交わされていた。

涙で滲んだ視界が歪む。


抵抗の所為なのか、首元の鎖は千切れて床に落ちた。



「てっちゃん!」


呼んだ声さえ届かない。

私はその場にうな垂れた。


刹那、背中からぬくもりによって抱きすくめられる。



「マリア、もう大丈夫だから。心配すんな。俺がいる」