てっちゃんがいて、頭痛薬と胃薬があれば、私の記憶を塗り潰すものが一時だけでも消えてくれる。

だから私はそれらが手放せなくなっていた。



重く圧し掛かるような頭の痛みも、そのおかげなのか、幾分緩和される気がするから。



てっちゃんの部屋に来て以来、一度として帰宅してない。

いつも私は頭痛薬と胃薬を飲みすぎる所為で朦朧としながら、雨粒に歪んだ窓の外ばかり見ていた。


雫がそこを伝う度に、涙の涸れ果てた私の代わりに泣いてくれているように錯覚できるから。


だけど、どうして泣きたいと思っているのかが思い出せなかった。

理由のわからない“悲しい”という感情だけが、そこにぽつんと取り残されている。



虚しさというものだけで形成された、骨と皮だけに成り下がった私。



てっちゃんはいつもそんな私を飽きもせずに何度も求めてくれる。

汚れて醜いガラクタの私の体を、てっちゃんだけが安らげる場所へと導いてくれる。




もう、てっちゃんの所有物としてのみ存在していたかった。




いや、世界から見れば、ここに閉じこもったままの私は存在すらしていないことになっているのかもしれない。

けれど、そんなことはどうだってよかった。


ぬるま湯に浸かっているみたいな曖昧な日々を繰り返し続けているうちに、私自身も溶けてなくなってしまえばいいのにと思う。


この雨のように、溶けた私も一緒にどこかの川にでも流れてしまえばいいんだ。

そうしたらいつか、空に浮かぶ雲になって世界を漂うことができるのに。




夏空を覆う積乱雲になりたかった。