無我夢中で走っていると次第に見覚えのある光景。


「嘘...。こんなに近くに住んでいたの?」


次第に走るスピードは落ちていく。

こんな時に、こんな嬉しい共通点なんて知りたくなかった。

休日の早朝。
歩いている人なんて殆んどいなくて。
とぼとぼと静かな街中を歩いていく。

さっきまでのこと全てが夢の世界のようだったな。
だって目が覚めたら最上部長の家で。普段見ることが出来ないプライベートな最上部長を見ることが出来て。
美味しい珈琲を淹れてもらえて、転びそうな私を後ろから抱き締めてくれて。


思わず足が止まる。


さっきの最上部長のぬくもり。吐息。全てがまだ身体に残っていてドキドキしてしまう。

背が高くて意外とがっちりしていて。

彼女さんは毎日あの身体に抱き締められているのかと思うと、羨ましくて仕方ない。


だけど、本当...。


「どうしよう、私...」


彼女さんは大丈夫なのかな?
私のせいで出て行っちゃったとかじゃないよね?
でも、もし本当にそうだとしたらどうしよう。

嬉しい気持ちと悲しい気持ちで一杯。

だけどこれだけは間違いない。最上部長は彼女さんのことが好きなんだってこと。

さっき私と至近距離で目が合った時、最上部長はすぐに顔を反らした。
そりゃ好きでもない子とそんな状況に陥ったら当たり前の行動なのかもしれないけど...。
それでもやっぱり私には大ショックな出来事で。悲しい。
ずっとあのまま見つめられていたら、それはそれで緊張しすぎて心臓が止まっちゃいそうだけど。
でも、やっぱり悲しかったしショックだった。


とぼとぼと歩いていたけどいつの間にか我が家に辿り着いた。


「とにかくもう寝よう」


こういう時は寝て忘れるに限る。
ゆっくりと階段をあがり、だんだんと二階が見えてきた時、


「宏美!」


聞き覚えのある私を呼ぶ声。