本当の俺を愛してくれないか?

他に物音もしないし、彼女さんはいないっぽい?
もしかして私が来てしまったからどこか別のところに泊まったとか?
そっ、それか私を連れてきた最上部長にキレて出て行っちゃった?


...どうしよう。


「すっ、すみませんでした!最上部長!!」


「えっ?」


私ってば取り返しのつかないことをしてしまった。

とにかく一刻も早く家に帰ろう!
そう思い、立ち上がり寝室にあった自分の荷物を取りに行く。


「えっ、小林さん?一体どうしたの?」


うぅ。最上部長。こんなときまで部下思いなんてしなくていいんです!


「帰ります!...あの、本当に本当にすみませんでした!」


心配そうに私を見つめる最上部長に大きく一礼し、早く出ていこう!と玄関まで向かっているその時、


「キャッ!」


「小林さん!」


それは一瞬の出来事なのに、スローモーションのように見えた。
つまずいて転びそうになって。床が間近に迫ってきて。
覚悟を決めて目を思いっきり瞑ったその時、背後から腕を強い力で引かれた。


「ってぇ...」


なぜか私の身体には一切の衝撃も痛みもなくて。だけど変わりに背後にあたたかな温もり。

そして聞こえてきた頭上からの声。


「...大丈夫だった?小林さん」


息が頭に触れて。私の身体なんてすっぽりと収まってしまっていて。

もう全身の全神経で最上部長を感じてしまっている私の脳内はパンク状態。

えっと...。とりあえず落ち着かなくちゃ。最上部長は私を助けてくれたんだから。そう!お礼!お礼を言わなくちゃ!!

どうにか思考を回復させてすぐ最上部長を見る。


「すっ、すみませんでした!あの、ありがとうござー...」


え。


顔を上げると間近にある最上部長の顔。
初めて至近距離で見る最上部長に私の体温は一気に急上昇してしまった。

そんな私につられてか最上部長の顔もほんのり赤くなって。
そしてばっと顔を反らされた。


その行為にショックと悲しさと寂しさが一気に襲ってきて。
私はそのまま勢い良く立ち上がる。


「本当にすみませんでした!」


捨て台詞を吐くように最上部長を見ることなく家を飛び出す。


もうやだやだやだ!
最悪すぎる!!なにやってんのよ私ってば!!