「きゃっ…、何してるのよ!離して!」


体を捩って離れようとした時、耳元にかかった吐息。


「今、俺のこと…“彼氏じゃない”とでも言おうとしたんだろ?」


「えっ…」


「他言無用って言わなかったっけ?」


鋭い指摘をされ、ピクリと肩が上がった。


「俺と紗姫の秘密なんだから、今度は気を付けろよ?」


「う、うん…。」


怒られるのかと思いきや、聞こえてきたのは…とても優しい声。


てっきり、契約終了にするとか…非情なことを言われるかと思っていただけに、拍子抜けしてしまった。


「それじゃあ、着替えて来いよ。俺、待ってるから。」


抱きしめられていた腕から解放される。


自分の部屋に向かうべく、慌てて階段を上り始めた私は、すぐにピタリと足を止めた。


皆辻君…“待ってる”って言ったけど、これから着替えて、朝ご飯を食べて、色々と支度していたら…それなりに時間が掛かる。


待つのが得意って感じじゃなさそうだもんね…。


そう思った私は、スタスタと足早に皆辻君のところに戻った。