そこにチリンチリン…とベルが鳴り、店のドアが開かれた。


ムッチリした体格の男と、それに反して骨と皮だけしかついていないような分厚い眼鏡男が、鼻の下をデレデレ伸ばして立っていた。



「…はい、お客様が来たぜぇ、メイドさん。
さあ、スマイルしろ〜」



レオナにそう言われてお客様に気付いたヒサノは一瞬で眉間のシワの伸ばし、満面の笑みでお客を振り返った。



「お帰りなさいませ、ご主人様★」



ブツブツと文句を言うわりにはなかなかさまになっている。

レオナはヒサノが見ていない背後で深く関心したように頷いた。



「はいレオナ、店長にコーヒー作れって頼んで。注文」



注文用紙を捨てるようにレオナに渡し、冷たく言い去るヒサノ。

そんなことを全く知らないデブとガリのお客様はまだ鼻の下をデレデレ伸ばしてヒサノを見ていた。


―――まったく、かわいそうな奴らだ。


レオナは小さく、聞こえないように溜息をついた。



「あー、早く一時間たってくださいな!
こんな服一秒でも早く脱ぎたいです!」



小さく叫んで、ヒサノは足に纏わり付いてうざそうなメイド服をバサバサと振ってこちらへ戻ってくる。

そして本当に巫女なのかと疑いたくなるような下品な大股でレジのデスクに肘をついた。

すると、ふと思いついたように顔を上げた。



「そういえばアランは何してるんでしたっけ?」



出てきたコーヒーを持って来たレオナを見て小さく首を傾げる。

持ってきたコーヒーを零さないように気をつけながら、レオナはゆっくりとヒサノに手渡した。



「アランは宿おさえてくるってさ。
子供なのに凄いよなぁ」


「あら、本当レオナとは大違いですねぇ。
あ……!」



ヒサノがさりげなくレオナの心に傷をつけると一人油分多そうなの男が会計にやって来た。

会計用紙を受け取り、レオナは慣れた手つきでレジを打つ。

それをヒサノは目を丸くしながらその速い手つきを見つめていた。


男は会計を済ませるとヒサノを見て、鼻の下を伸ばしながら店を出ていった。