「――…こちらリーダー藍 香月!北西より敵襲を確認!至急街の外へ出ろ!犬一匹でも街に入れるな!」
波のように押し寄せる人々にのまれぬよう、香月とリュンマは全力で走っていた。
香月の片手には、最近開発されたばかりの小型通信機を持ち、叫ぶようにして命令を下すという状況だ。
通信機は国王騎士が事前に備えてあるピアスの形をした受信機で受信できるようになっている。
よって、香月の命令はしっかりと他の騎士達の耳に入っていた。
すぐ隣を走るリュンマには叫ばなくても全く聞こえる距離だが、今そこは考えるべきではない。
さすがのリュンマもいつもの笑みはなく、口元は固く結ばれていた。
「……ちっ…!何故敵襲が今頃…!」
「……きっと、ヒュネットだろうね。ついに行動で示して来たよ」
「…くそっ…!タイミング悪すぎだろ…!」
「リュンマはそろそろ来ると思ってたけど。もうちょっと早く来ると思ってたから」
「どのみち欝陶しいことこの上ないわっ!」
昔からいがみ合っていた二国。
自分達自身、差別は嫌いだからヒュネットの人間を特別差別することはなかった。
……だが、好いているわけではない。
数十年前、大きな戦争をした仲なのだ。
ヒュネットなんか特にこちらを物凄く敵視しているに違いない。
そして、今きっと襲い来る連中はヒュネットの国王騎士で間違いないだろう。
あちらがそう来るならば、情けはかけない。
差別?殺し?
……そんなもの関係はない。
敵は、斬り捨てるのみ。
今日もきっと、鮮血の雨が降るのだろう。



