「兄ちゃん、手がおっきいね」


「そうか?」


「うん。おっきくてあったかいね」


「あったかい?」


「うん。ホッとするね。父ちゃんみたい」


「………そっか」



父ちゃん。その単語が出た時、ドキリとした。
ハーバは温かい。しかしそれが遠い昔の家族の思い出を思い出させようとする。

それが少し、怖かった。



「オイラさ、父ちゃんのこと覚えてないんだ」


「………」


「本当の母ちゃんも、覚えてない」


「………」


「ねぇ兄ちゃん。父ちゃんや母ちゃんって、どんな感じがする?」



どんな感じがするとか言われても。
家族とは十年程関わりを持っていないし、そんな遠い記憶、あまり思い出したくもない。

だけど、悪い物じゃなかった。



「………あったかいよ」


「……あったかい?」


「うん、おっきくてさ。優しくてさ、守られてるって感じがする」



口に出して、初めて解ることがある。

遠い昔、幼かった自分は確かに守られてた。

今となっては多少イラッとくる父親だが、確かに大きな愛とかいうものはたくさん貰っていた気がする。


………まあ、昔の話だが。



「兄ちゃんの父ちゃんと母ちゃんは、いい人達なんだね!」


「……そうなのかもなぁ…」


「ねえねえ!兄ちゃんの母ちゃんか父ちゃんも髪が赤いの?」


「……あー俺は母さん似だとか言われてたから、母ちゃんが…………」














―――…え?


今この子供は何と言っただろうか。
髪が赤い?もしやサロナの薬の効果が切れたのか?それはやばいな。

そう思って近くの店のガラスに写っている自分を見たが、たいした変化はなかった。

相変わらず黒。真っ黒な髪を貸してもらった専用の白い大きな布で軽く隠している。



なら、何故、ハーバは…?