男の子の名前はハーバというらしい。

その名前は江戸州文化のものではない。
ハーバは家族で旅行に来たようだ。
こんなところに何をしにきたのだと問えば「温泉旅行!」と元気よく答えた。

確かに吉倉は温泉でも有名だそうだが、もっと子供に相応しい場所を選べなかったのだろうか。

案の定迷子だ。



「ハーバ、母ちゃんの特徴は?」


「母ちゃんじゃないよ?母ちゃんみたいな人だよ!」


「母ちゃんみたいな人…?」


「オイラを生んだわけじゃないから、母ちゃん変わりなんだ!」



なんだそれは。もしかして複雑な家庭事情なのか。
そう思ってそれ以上は聞かなかった。

ハーバはあの涙が嘘のように楽しそうに笑っていた。
繋いでいる手をぶんぶんと振りながら歌まで歌っている。

何がそんなに楽しいのか。あんまり楽しそうなものだから一緒に歌ってみた。

知らない歌だから鼻歌程度だけれど、案外聞きやすく耳に残るメロディだった。



「この歌はね、その母ちゃんみたいな人がよく歌ってる歌なんだ!最近オイラもやっと覚えたんだよ!」


「そっか。いい人なんだな」


「うん!優しくてね、よくオイラをギュッとしてくれるんだ!大好きだよ!」


「そ、そうか」


「ときどき怒って怖いけど、ごめんねって謝ったら、…こうやって!頭撫でてくれるんだ!いいよって」



ハーバは本当にその人が大好きらしい。
親に対してそう素直に言える年頃なのだろう。

長らくその人の話をしていたが、父親の話は全く出てこなかった。


何となく、てっぺんで纏めてある鷹色の髪を眺めた。
手をのばしてぽんぽんと数回撫でてやると、とっても嬉しそうな顔をした。



「ふふ、どうしたの兄ちゃん」


「いや、……何となく」


「ふふふー」



本当に嬉しそうだ。
繋いでいる手に抱き着いて来たが、そのまま歩いた。


どうしよう、子供ってめちゃめちゃかわいい。