……なんでこんな時に。


クレストは苦々しく眉を潜めた。

目の前にある和葉の表情も真剣で…やはり厄介な奴が来たらしい。宗十郎殿達がいる大分離れた部屋から、酒瓶の割れる音がした。

その後に聞こえる甲高い声。

……鶏の首を絞めたような喚き声。クレストはその声に少々聞き覚えがあった。



「…この声…女やな。…お、なんかまた聞こえるで」


「………この声は…」


「……ちょ……っ…クレスト何処行く気や…!」



自分の口を抑えていた和葉を押し退け、クレストは立ち上がった。

そのまま音もなく、声のする方向へ歩いていく。

自然と和葉も着いて行く形となった。


声はだんだんと近くなり、言葉が聞き取れた。




「あ゙〜〜、ムカつく!なんだあいつ!師匠の顔見た途端ダッシュで逃げ去りやがって!!」


「……うるせーのぉ。弟子に逃げられたぐれぇて喚きやがって…ちぃたぁ大人しゅう出来ないんかい」


「うるっさいわ!あんたにはわかんないよね!!…あ、酒が無くなった。……皐月ー!もう一瓶持ってこーい!」


「……おい、ここはおめぇの酒飲み処じゃねぇぞい。皐月を勝手に使うな。皐月は俺の小間使いだ」


「俺は小間使いじゃないっすよ師匠ぉ!!」




……どうやらなかなか親しい仲らしい。

やってきたのは、宗十郎の…旧友ってところが1番妥当だ。



宗十郎、皐月、茜、そして突然やってきたある女。

その四人が談笑のような事をしている部屋の数歩後ろで、クレストと和葉は聞き耳を起てていた。



「………クレスト…この声は…私も聞いた事あんで…」


「……ああ、俺もだ姐さん。…こいつは…」

























「しっかしまぁびっくりしたよー。うちの弟子がいきなり里帰りしてんだから。連絡ぐらい寄越せっての」



女らしかぬ行儀の悪い恰好で干物にかじりつく女。

その隣にはおちょこで少しずつ酒を含む宗十郎。



「まだいいじゃねぇかいそっちの弟子は。うちのもう一人の弟子は連絡どころか、今生きとんのかもわかんねぇからのぉ」