宗十郎という人は、意外にも親切だった。
仕事の話をすると言えば、舌打ちをしながらもこの家のある一室を用意してくれた。
目の前には温かいお茶、そして江戸州産の甘いお菓子。

三人が住むにはやけに大きいこの屋敷。

……きっと本業は鍛冶屋などではないのだろう。
第一、女が体売る吉倉に鍛冶屋が存在すること事態がありえないのだ。













「……じゃあ明日、私がスパッとしてくればいいんやな?」


「ああ、よろしく頼むよ姐さん」


「心配御無用や。私やって情報屋クレストと肩を並べる程有名な殺し屋や。失敗はせぇへんよ」


「わかってるわかってる。あんたの腕は俺が1番信用してる」


「当たり前や。何年一緒に仕事しとるんや」



そう言って笑い、お茶を口に含んだ。
やはり、江戸州のお茶は少々苦い。


仕事の打ち合わせは、ほんの10分程度で終わった。
仕事内容は単純だから、話し合うこともあまりない。

単純だが………重い仕事だ。



「……そういえば姐さ…」















「――――…っ!!」


「――…もがっ!!」



また何か話そうとクレストが口を開いたその瞬間、和葉の素早い動きによってその口は封じられた。

いきなり口を抑えられたためか、情けない声が出た。うん、恥ずかしい。

しかし、和葉の様子がおかしい。自分自身の唇にも「しーっ」と指を当てている。

きっと、何かに気付いたんだ。流石は有名な殺し屋。少しの気配でもわかるらしい。

なので、クレストは大人しくコクコクと首を縦に振った。



「……誰か来た。この屋敷に」


「………でも、お得意様しか入れないって…」


「それは口実や。この屋敷に来る者は…裏の者か…裏に足突っ込んどるような者か…宗の旧友やな」


「………」


「それか…宗の女房や。やけど…宗の女房は出張に出てるみたいやから長いこと帰ってこんらしいし。…宗の旧友もめんどくさい奴ばっかりや。どれが来たとしても私等には都合が悪い…とりあえず私等はばれんようにしとこ」