ゴッドネス・ティア

大きく目を見開いた青年は、それはもう聞き慣れた名前を口にした。



「…………あれ?俺、自己紹介したっけ?」



情報屋、というだけで名前を言い当てられるとは。自分はそれほど有名人であったろうか。

自分でもクレストという名前は裏世界ならもちろん表世界でも少しは知れ渡っているだろう、とは思っていたが、……顔はあまり知られていないはず。



「和葉さんとよく仕事してらっしゃるんですよね?……話は和葉さんからよく聞いてるんで…」


「……え、ちょ、…姐さん話って…何喋ったんだよ…」


「ふふ、頭とは仲良しやけん。酒が進むと口が軽ぅなってしもうてなぁ…あんたと仕事組むこと多いやろ?あんたのネタが豊富でなあ……そんときに口が滑ってしもうたんやろうなぁ」



…滑ったって。

ありえない。和葉は情報屋ではないからわからないかもしれないが、情報屋にとって簡単に情報を漏らすことは、自殺行為だ。

情報を売る事を商売としているのだがら、口が滑ることなんて死んでもありえないのだ。


(……職業が違うと思考まで違うものなんだな…)











「皐月、改めて紹介するけど、こちらさんはなかなか名の知れとるクレストっつー情報屋や。仲良くしたってなぁ」


「な、仲良く…?…じゃあよろしくお願いします…クレストさん」


「そんでそちらさんは、この店の頭のお弟子さんや。んー…確か田所 皐月やったかな?まあええわ。はい、握手ー」


「…………はぁ、…よろしく」







………なんだ、この微妙な空気は。

それより何故和葉はこんなところに来たのか。

知人に会わないにしても、他の場所があっただろうに。


クレストと皐月が生暖かい握手を交わしていると、また奥から物音がしだした。

ドスドスドス、と響く、多分足音。

そして大きくなる足音と共に現れたのは、……だらし無い恰好の男性。

もうお兄さんとは呼べないお年頃なおじさんが、煙管をくわえた口元に不気味な笑みを浮かべてこちらに近づいて来た。