ゴッドネス・ティア

とくに声を張り上げるわけでもなく、普段の上品な笑みを浮かべたまま和葉は言った。

その後、聞こえてきたのは、この店の奥からの騒音。

ドンガラガッシャーン、という耳を塞ぎたくなるような音と、何やら乱暴な声と言葉。



「………ぃだ!痛いっす師匠!酒瓶を投げるなんて…!なんちゅー神経してんすか!」

「じゃあかしいわクソ弟子。ぐだぐだ言わんこうさっさと客出迎えてきぃ」

「…あだっ!!ちょ、金づちはないでしょ!師匠の馬鹿!!」

「馬鹿に馬鹿言われてもなぁ、傷付かんわい」

「ええけぇ早う出んかい皐月!お客が待っとるじゃろうが!父ちゃんは飲んだくれで使いもんならんの知っとるじゃろう!」

「なんだと茜ぇえ!おまえをそんな子に育てた覚えはねぇぞ!」

「本当のことじゃろうがクソ親父!…ええけぇ皐月は店出んさい!」

「う、うわーん!!」








……なんだか本当に騒がしい。

怒鳴り声、喚き声、叫び声、泣き声。奥では何が起きているんだろうか。

そんな事を思いながら隣の和葉を見ると、不審げな顔をするどころか可笑しそうにクスクスと笑っている。

バタバタと音がして、店の奥から…半ベソをかいた青年が出てきた。

楽な恰好に頭に巻いた薄汚れた白いバンダナ。

きっとこの店の頭の弟子か何かだろう。

そんな青年が、自分達を見た瞬間目を丸くして絶句した。
いやきっと、自分達、ではなく、和葉を見て、だろう。



「…………あ、和葉…さん?」

「すまんなぁいきなり押しかけて。あんた皐月やろ?…大きゅうなったなぁ」

「いやいや、前に会ったのほんの少し前じゃないっすか。……隣の方は?」


どうやらこの青年とも知り合いらしい。
青年はクレストに視線を移して、怪しい者を見るかのように眉を潜めた。

まあ、実際怪しいのかもしれないが。



「ああ…こいつは『情報屋』や。今日は私の連れやで」

「…………情報…屋…?!」



そう和葉がクレストの素性を明かした瞬間、青年の目は見開かれた。

何をそんなに驚くことがある青年よ。

情報屋なんてその辺腐る程いるのに。



「………情報屋…クレスト!?」