今から日が暮れるというのに、がやがやと、やたらに人が多い。


人々の服は、自分達から見れば、それはそれは変わった物ばかりで、ついつい目で追ってしまうし。

髪型や、仕種、話し方、街の雰囲気。



全てが、少し自分達の住んでいたところと違う。













ここは、江戸州の『紅桜市街』。

江戸州の中でも大きな、商いの街。

至るところに店が立ち並び、夕方だというのに店は大いに賑わっている。













「よーい!そこのイケてる兄ちゃん!簪なんかどうだい!」



物珍しげに辺りをキョロキョロと眺めていると、ちょうど通り掛かったあるお店の女性に威勢よく声をかけられた。

相変わらず江戸州文化の着物を、その貫禄のある容姿に見合うよう楽に着こなしている。



「この簪なんかどうだい?ほらこっちなんかもかわいいだろ?」



豪快な笑みを向けてくる彼女と目が合ったのは…何故か頭に白い布を巻いた少年。

その少年の後ろには立ち止まった少年を見下ろす綺麗な長身男性。


頭から首まですっぽり被った布を掴んだまま、少年はその男性を振り返った。





「……スノーリア、おまえ呼ばれてるぜ?」


「………私か?」


「イケてる兄ちゃんっておまえしかいねぇだろ」



そう苦笑いを浮かべるのは……少年レオナ。

だが、彼の白い布から覗く髪は何故か黒い。

そして、彼の瞳もかつての赤ではなく、髪と同色の黒である。


そんなレオナを見て、店の様々な物を勧めてくる女性は、また豪快な笑い声を上げた。



「ははは!何言ってんだい!後ろのお兄さんもいいけど、あたしが話し掛けてんのは変な布巻いたあんただよ!!」


「………俺!?」



イケてる、という単語を言われた記憶がない。

そのほかに、あまり褒められることもないレオナは、驚きの声を上げた。