「……陛下…何日寝てなかったんだ…?」


「そうね……二日、だったかしら」


「……二日、か。実は私、三日は寝ていないんだが」


「あらそう、実は私もなの。じゃああとの残りの執務を終わらせるまで頑張りましょうね」


「……………死ぬ」



明らかに寝不足のクロエに対して、エリザベートの方はそんな風には全く見えない。

彼女はどういう体力をしているのか…文化系のはずなのに、毎日鍛練を怠らないクロエよりしゃきしゃきと動く彼女をクロエは羨ましく思った。



「じゃあとりあえずクロエ。貴女、ハーブティーをいれて来て下さらない?」


「………ハーブティー…?」


「お茶の名称くらい解るでしょう。その辺りにきっとメイドか何かが歩いていると思うから、用意させて持ってきて?貴女が」


「………まさか陛下を起こす気か…?こんなに気持ちよさ気に眠っていらっしゃるというのに…」



淡々と言ってのけるエリザベート。それに戸惑いながら返すと、…どんな感情も見えないある意味恐ろしい無表情がこちらを向いた。

微かに、だが。本当に微かに、…彼女は苛立っているようにも見える。



「あら、じゃあクロエが全てこの執務を熟してみせるというの?それならいいわよ、出来ると言うのならやってご覧なさい。一人でこの執務の山という山の山々を全てやり遂げてくれるなら、私、文句など一切申しませんわ。けれど、三人でも時間のかかるこの山々を貴女が一人で?無理でしょう、無理に決まってるわ。貴女元々文化系じゃないし、向いていないし。今此処で陛下にのうのうと睡眠なんかされてたら困るのよ。これ以上時間はかけられないの。貴女も解っていらっしゃるのでしょう?……私の言いたい事、お分かりよね?ならとっとと回れ右してハーブティーを準備なさい。濃いめでね、陛下が一生お眠りにならないような、とてもとてもスースーするハーブティーを。ほら早く。そんな情けない表情している暇があるのなら書類の一枚や二枚片して欲しいとこなのだけど、今はそれどころじゃないの。ほら早く…………………早く行けというのが聞こえないのかしら?」



いつまでもうじうじと佇んでいたクロエは、最後のエリザベートの低音により颯爽と部屋を出て行ったのだった。